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VOL.6 ブルカ禁止法
日本で昨年10月に選挙権年齢が18歳に引き下げられて初めての国政選挙があったことは記憶に新しいところですが、実は、その選挙の1週間前にオーストリアでも下院選挙がありました。なんとオーストリアでは18歳どころか、16歳から選挙権が認められています(ちなみに、16歳から飲酒も許されています)。この下院選挙、オーストリア内外で大きな話題を呼んだのですが、その理由の一つに、31歳という若さの党首が率いる中道右派の政党が市民の支持を得て、優勢となっていたことがあります。この政党はイスラム教の幼稚園の閉鎖を主張するなど、強硬な難民・移民政策を掲げていたことも選挙が注目された理由の一つでした。そして、当初の予想通り、この党が選挙に勝利し、その結果、党首のクルツ氏が弱冠31歳にしてオーストリアの首相に就任しました。
私がウィーンにやってきた2015年の秋、難民危機が発生し、ウィーンにも大量の難民が押し寄せました。ウィーン中央駅では多数の難民が寝泊まりしたり、ウィーンからブダペスト行きの直通列車が運行休止になったり、様々な影響がありました。このことは日本でも大きく報道されたので、覚えている方もいらっしゃるでしょう。私はそれ以前のウィーンを知らないので、難民危機を機に街中で見かけるアラブ系の人たちの数が劇的に増えたのかどうかはわかりませんが、現在ウィーンでは、普段からアラブ系の人をかなりの頻度で見かけます。電車に乗ったら、ヘッドスカーフをしたイスラム教徒の女性が同じ車両に乗っていないことはまずないくらいです。また、私が通っていた語学学校には、シリア人の生徒も多く、一生懸命ドイツ語を学んでいるのが印象的でした。こちらでは滞在資格を得るのに、かなりレベルの高いドイツ語のテストに合格する必要があるので、皆必死なのです。
日本ではそもそもイスラム教徒の方をそれほど頻繁には見かけないですし、あまり馴染みがありませんが、イスラム教徒の女性の衣装で、ブルカやニカブという、目以外の部分は全て真っ黒に覆う衣装をご存知でしょうか?私はつい先日まで、ヒジャブ(ヘッドスカーフ)やチャドル(髪と全身を覆うマント)とブルカやニカブを混同していました(ブルカとニカブの違いは目の部分をレースなどで隠すか隠さないかのようです)。昨年10月1日から、ウィーンではこのブルカやニカブを公共空間で着用することを禁止する通称ブルカ禁止法が施行されました。ブルカ禁止法施行当日から早速路上でブルカを着た女性などに対し、警察官が取り締まりを行ったようです。違反者には150ユーロの罰金が科せられます。この法律は、社会の安全のため公共空間において顔を隠すことを禁止するものですから、ブルカやニカブに限らず、お面やフェイスマスクなど顔を隠すことを目的にしたものを公共の場で身に付けることが禁止されます。したがって、日本人にはおなじみの花粉用マスクなどを着用していると警察官による取り締まりの対象となる可能性があると在墺日本人社会では注意喚起されていました。しかし、通称ブルカ禁止法と呼ばれるように、実質的なターゲットはブルカやニカブを着用したイスラム教徒です。私は個人的にはブルカやニカブを着たいとは思えないですし、イスラム教徒の女性たちが本当に心から望んでこれらの衣装を着ているのか、常々疑問に思っています(冬はともかく夏は暑そうですし、食事をとるのも大変そうです)。しかし、だからといって、その着用を法律で禁止し、罰金まで科すことにも違和感を感じます。昨年10月の選挙の結果、現在のオーストリアは第1党の中道右派と第3党の極右政党の連立政権で、西欧では唯一極右政党が政権入りした国となっており、今後は厳しい難民・移民政策が採られることが予想されています。このような法律や今後の難民・移民政策がイスラム教徒、ひいては外国人に対する社会の差別を助長しないのか、気がかりです。