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VOL.5 オーストリアワインとワイン法

秋が深まりゆく今日この頃、ウィーンの市場にはマローネ(栗)や生のポルチーニ茸などの秋の味覚が並び、くいしんぼうにはたまりません。そんなウィーンの秋の味覚の一つにシュトゥルム(Sturm)というお酒があります。これは、ワインの初期段階、発酵途中のぶどう果汁で、ぶどうジュースとワインの中間のような爽やかな口当たりのお酒です。アルコール度数もそれほど高くありませんが、私のようにアルコールが得意でない者でもするりと飲めてしまい、逆に危険だったりもします…。シュトゥルムとは嵐という意味で、瓶の中で「嵐」(発酵)が起こっている最中ですので、栓をすることはできず、口部分にアルミホイルなどを巻かれて売られています。ちなみに嵐という名前の由来は、十分に精製されていないので悪酔いしやすく、口当たりがよいからと調子に乗って飲むと翌朝頭が「嵐」になるからという説もあるようです。このシュトゥルム、初秋の9月上旬から10月下旬にかけて、ウィーン市内の多くのカフェやレストランで楽しめますが、秋の晴天の下、ブドウ畑に囲まれたホイリゲ(ワイン居酒屋兼レストラン。もともとはワインの生産農家が自家製ワインを提供していました。)で味わうのが最もおすすめです。栓をしての保存などはできないという性質上、この時期にオーストリアでしか飲むことができませんので(ワインの産地では、どこでも作れるはずですが、このように広く流通していて手軽に飲めるのはオーストリアだけのようです。)、ぜひこの季節にオーストリアを旅行する機会があれば探してみてください。

 

ワイン畑の風景

 

 

さて、日本ではあまり馴染みのないオーストリアワインですが、実はオーストリアはワインの一大生産国であり、ウィーン市内にも多数のワイナリーがします。市の中心部から地下鉄とバスを乗り継いで30分もすれば緩やかな斜面にブドウ畑が広がります。天気の良い日にブドウ畑のハイキングを楽しみ、その途中に点在するホイリゲで喉を潤すのは最高です。近年、オーストリアは国内外で品質の高いワイン生産国と認知されてきているそうですが、その理由の一つは世界一厳しいとも言われるワイン法による徹底した品質維持にあるようです。ワイン法とは,日本人には聞きなれない法律ですが、醸造方法やラベル表示、原産地呼称・地理的表示その他ワインに関する事項について規定する法律で、様々なワイン生産国で定められています。そして,加盟国の中に多数のワイン生産国を擁するEUにおいては、加盟各国のワイン法の上位法となるEUワイン法(EU理事会規則479/2008等)が存在します。同法では、たとえば、ワインは「新鮮なぶどう・ぶどう果汁をアルコール発酵させたもの」と定義されているので、EU域内で日本酒を「rice wine」と表示して販売することは許されません。EUワイン法の下位法となるオーストリアのワイン法には、たとえば、カンプタールという地域名を冠することができるのは、同地の伝統であるグリューナー・フェルトリーナーかリースリンクという品種を使用したワインだけであるといった原産地呼称制度や地理的表示に関する規定の他、先ほどのシュトゥルムの販売期間の定め(8月1日から12月31日まで)などもあって、面白いです。

 

ワイン畑の風景

 

 

 

日本では、平成27年10月30日に国税庁から出された、果実酒等の製造品質表示基準(告示第18号)に日本ワインとは「(略)原料の果実として国内で収穫されたぶどうのみを使用したものをいうという定義規定や同一の収穫地で収穫されたぶどうを85%以上使用する日本ワインのみ地名を表示することができる等の規定が設けられ、来年(平成30年)10月30日から適用となります。これをもって、日本にもワイン法ができたと言う向きもありますが、厳密には「法律」ではありません。また、農林水産物に関しては、平成27年6月に地理的表示保護法が施行され、神戸ビーフや夕張メロン、イタリアのプロシュット ディ パルマなど40以上の品目が登録されています。日欧EPAの影響もあり、今後日本における地理的表示がどのように推移するか興味深いところです。

 

ワイン畑の風景

 

 

 

せっかく、ワイン大国オーストリアにやってきたというのに、私は残念ながら酵素が足りないようで、アルコールに弱く、ワインにも全く詳しくないのですが、こちらで比較的よく飲むようになった飲み物にゲシュプリッツァというワインの水割りがあります。よく冷やした白ワインと炭酸水を概ね1対1の割合で割ったものですが、ホイリゲだと、白ワインの瓶と炭酸水の入ったカラフェとジョッキがどんとテーブルに置かれ、自分の好みの割合で水割りにできます。ワイン愛好家の方には邪道と思われるかもしれませんが、先日ホイリゲに連れて行った友人も、最初はワインに水を入れるの?と怪訝な顔をしていたものの、一口飲んで、これ美味しい!と喜んでいましたし、ウィーンに来て一番よかったのは、ゲスプリッツァに出会えたこととまで言う酒飲みの友人もおります。これならオーストリアまで来なくとも、日本で楽しめますので、特に夏の暑い日にビールの代わりにキンキンに冷やしたワインの水割り、一度試してみてください。ヤミつきになるかもしれません。

 

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