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そもそも「民法」って何だ?(2020年4月の民法(債権関係)改正を踏まえて)
2020/4/1
弁護士 高尾 慎一郎
2020年(令和2年)4月1日から、新しい民法(債権関係)が施行されました。
民法の財産編は、1896年(明治29年)に制定され、1898年(明治31年)に施行されました。その後、適宜小さな改正はありましたが、大きな改正を経ることなく約120年が経過しました。
日本が日清戦争に勝利したのが1895年(明治28年)であることを想起すると、現行の民法(親族・相続は除きます。)が相当昔に成立したものであることを実感していただけると思います。
民法は、個人と個人の取引、個人と会社の取引、会社と会社の取引、全ての取引の基本ルールです。
私たちがスーパーで野菜を買うのだって、民法に定められたルールに従っています。
民法第555条は、このように規定されています。
「売買は、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって、その効力を生じる。」
この条文を細かく見ると、売買契約が成立する条件が書かれていることがわかります。つまり、
@当事者の一方が財産権を相手方に移転することを約束し、
A相手方がこれに対して代金を支払うことを約束すること、
が、売買契約成立の要件であると定めているのです。
「売主の『〇〇〇円でこの商品を売りましょう。』という意思と、買主の『〇〇〇円でこの商品を買いましょう。』という意思が合致すること」だけが売買契約の成立要件なのです。
そのようなことを意識されたことはないでしょうが、スーパーで野菜を買うのも立派な売買契約です。でも、レジを通す際、契約書なんか作成しませんよね。それは、民法第555条が、契約書などの作成を売買契約の成立要件としていないからです。
では、「保証人になる」という保証契約も、「保証人になってください。」「保証人になりましょう。」という口約束だけで成立するのでしょうか。
民法第446条第2項は、このように規定されています。
「保証契約は、書面でしなければ、その効力を生じない。」
つまり、保証契約は、書面ですることが要件だと規定されていますから、「書面がなければ保証契約は成立していない。」ということになります。
これらの例を見ていただいてわかるように、民法は、私たちが社会生活で行う取引の基本ルールですから、その改正は、私たちの経済活動にも大きな影響を与えることになります。
民法(債権関係)の改正作業は、2006年1月、法務省が民法(債権関係)の抜本的見直しに着手する旨を公表したことに始まります。2009年10月には当時の千葉景子法務大臣から法制審議会に対し「民事基本法典である民法のうち債権関係の規定について、同法制定以来の社会・経済の変化への対応を図り、国民一般に分かりやすいものとする等の観点から、国民の日常生活や経済活動にかかわりの深い契約に関する規定を中心に見直しを行う必要があると思われるので、その要綱を示されたい。」と諮問され、法制審議会民法(債権関係)部会での議論がスタートしました。
その後、99回の部会と18回の分科会を経て、2015年2月に要綱案が取りまとめられ、11年もの議論を経て、2017年5月、改正民法が国会にて可決成立しました。
改正内容は、消滅時効制度の見直し、法定利率の緩やかな変動制、個人保証の制限、根保証規制の拡大、定型約款規定の新設など多岐にわたります。
改正に対応するために契約書を作成し直さなければならないこともあるでしょう。
改正民法施行を機に、取引先との合意内容を再確認してみてはいかがでしょうか。