労働問題
「同一労働同一賃金ガイドライン案」が持つインパクト
2017/5/1
弁護士 大浦 綾子
2016年12月に、「同一労働同一賃金ガイドライン案」が公表されました。これを受けて、いわゆる「非正規」と呼ばれる、契約社員・パート社員の賃金について、何らか見直しは必要なのでしょうか。
まず、「同一労働同一賃金ガイドライン案」の位置づけですが、現時点では、何らの法的拘束力も有していません。したがって、これに反しているというだけの理由で、裁判所が「違法だ」という判決を出したり、労働基準監督署から「違法だから是正せよ」と勧告を受けるということはありません。ただし、2019年には正式な「ガイドライン」として施行すべく、関連法改正の検討が進められていますので、これに備えた検討を進めておく必要があります。
ガイドライン案には、基本給、各種手当等において、正規・非正規間で格差がある場合に、いかなる場合が不合理なのかが、典型例を用いて示されています。今回は、そのうちの2点を紹介します。
まず、「賞与」についてですが、「正社員には全員賞与を支給していうるが、契約・パート社員には支給していない」という制度は問題である、とされています。現実には、非正規には賞与はないという会社が多いですが、それが「当たり前」では通らない時代になっていることをご認識いただき、見直しを検討する必要があります。
次に、「通勤手当」や「食事手当」といった、実費を負担するような目的で設定されている手当についても、正規・非正規で扱いを分けるべきではないとされていますので、再検討が必要です。
冒頭に述べた通り、ガイドライン案には、現段階では何らの拘束力もありませんが、これが公表されたことにより、処遇に満足をしていない非正規労働者が、ガイドライン案を持ち出して、格差是正をせよと求めてきてトラブルになる、といったリスクは確実に上がっています。トラブルを予防し、また、採用難の時代に優秀な人材を集める企業になるためには、非正規の待遇改善に積極的に取り組んでいくことが重要です。
大浦 綾子
弁護士、ニューヨーク州弁護士 京都大学法学部卒
野口&パートナーズ法律事務所パートナー弁護士
平成16年の弁護士登録以後、経営者側の立場で解雇、セクハラ・パワハラ、残業代をめぐる裁判・労働審判などを数多く担当。平成21年からの2年間は米国留学と外資系企業における企業内弁護士(人事部担当)を経験。一貫して経営者の立場で、労務関係の予防法務・紛争解決に取り組む。